「軽い気持ち」のアルバイトから『戦隊大失格』総作画監督へ YSPで駆け抜けた3年間の成長記録【後編】

「アニメを描くアルバイトがリモートでできるなんて!」と当時は軽い気持ちでアニメ制作会社Yostar Pictures(YSP)に応募したと語る古関果歩子(こせき かほこ)さん。そして実際のアニメ制作現場に飛び込み、それがいかに甘い考えであったかを気づくことに…。
それから3年。古関さんは持ち前の好奇心とやってみたい精神、そしてYSPで培った様々な経験で、TVアニメ『戦隊大失格』でキャラクターデザイン、総作画監督としてデビューしました。
同作品は戦闘員Dの反逆と下剋上を描く異色のヒーローバトルアニメで、YSPが制作を担当しています。
今回のYostar Plusではそんな古関さんに、入社当時の心境や業務を通しての経験、『戦隊大失格』のキャラクターデザイン、総作画監督として、1stシーズン、2ndシーズンを通した、キャラクターの作画についてや、Yostar Picturesに入社したから得られた経験値についてお聞きしました。
古関 果歩子 – こせき かほこ
Yostar Pictures / 2020年3月入社 / 『戦隊大失格』でキャラクターデザイン、総作画監督を担当
2つのシーズンを走りきって見えた成長と変化

――(前編では)軽い気持ちでアニメ業界に入り、その後「戦隊大失格」で総作画監督になり、認識の甘さを感じ、責任感が芽生えるようになったというお話をされていました。今、2つのシーズンを走りきった心境をお聞きしたいです。
1stシーズンのときは、自身の役割に対しての認識の甘さや、自身の持つ責任の大きさを重荷にしてしまったところがありました。
当時は何でもかんでも自分でやらなければいけないと思い込み、その勇み足のせいで、周囲に迷惑をかけたこともあります。責任を持つ部分はどこに対してなのか、という点に自分自身が気がついていなかったんです。
そんなことから2ndシーズンでは、自分の立場で何ができるかを念頭に、もう少し冷静に振り返ったんですが、「ここまでしなくても良かったのでは?」ということがわかってきたんですね。良い意味で力を抜き、その労力を自身の仕事である作画に注力することができたんです。
スケジュール的な制約が1stシーズンに比べてタイトだったこともありますが、その背景もあって、取捨選択の判断をより鍛えることができたんだと思います。
――:キャラクターデザイン、総作画監督を担当としてデビューしたTVアニメ『戦隊大失格』1stシーズン。続く2ndシーズンでは、ある程度経験値が蓄えられた状態でのスタートになりました。その部分を実感したことはありますか?
1stシーズンに比べて、キャラクターを描くスピードが早くなりました。迷って手が止まる時間が少なくなった実感があります。またキャラクターデザイン、総作画監督という役割で言えば、原画さん、動画さん、仕上げさんといった工程の人たちが制作するうえで、迷いの部分を減らしていくようなアプローチができたんじゃないかと思っています。
――:”迷いの部分を減らすアプローチ”について、詳しくお聞きしたいです
当たり前のことではあるんですが、メモや申し送りって大事なんです。戦隊大失格で言えば、キャラクターの服装において書き損じや書き間違い、色が異なるなど様々なトラブルなどが起こっていました。分かりやすいところだと、戦隊の隊員スーツのベルトは特にミスが頻発しやすかったです。

――:改めて見てみると、ベルト部分は複雑ですね
そうなんですよ。描き間違いで丸のパーツの色が潰れたり、ベルトのパーツそのものがなくなったりすることがありました。ベルトに限らず、隊員スーツのような黒+原色のはっきりした組み合わせだと、中心の白ラインなどの際立った色が消えるだけで、パーツ抜けしてるようにしか見えなくなってしまうんですね。隊員の武器であるドラゴンガジェットもそういう傾向にありました。
そこで、作画修正時にちょっとでもミスが起きそうな部分はなるべく申し送りを書いて、2期の作業が始まる前に、戦隊のスーツを着ている隊員の設定を描き足してメモで補足するなどで、できるだけミスを未然に防ごうと試みました。ただ1stシーズンから登場しているキャラクターに大きな変更をかけていくのは難しいので、ミスしやすい部分をピンポイントで修正しています。
スーツだけでも割と手一杯だったんですが、2ndシーズンで錫切夢子(すずきり ゆめこ)の私服差分や翡翠かのん(ひすい かのん)のセーラー服の種類が増えたことで、服装差分の描き分けの苦労も増しました(笑)。
――:(笑)。個人的に描いてみたかったキャラクターはいたのでしょうか。
『戦隊大失格』はサブキャラクターデザイン担当の方と分担して設定を起こしたんですが、私の得意分野は女性キャラクターだという周囲からの期待もあり、特に1stシーズンではそちらの方向に専念していました。
でも本当は、老若男女全部描いて経験を積みたかった(笑)。特に筋肉ムキムキの七宝 司(しっぽう つかさ)と撫子 益荒男(なでしこ ますらお)は絶対に描いてみたかったんです。ただ前述した得意分野が優先だったり、キャパやスケジュール的な問題で結局手をつけることができず、内心悔しい想いがありました。



今回の2ndシーズンでは、「我藤 嶺」(がとう みね)という、元軍人で体の大きなキャラクターが登場しました。ここで、私の描きたい欲が抑えきれなくなり、我藤の設定は描かせてほしいと監督に直談判したんです(笑)。
――:筋肉に対してものすごく執念を感じます(笑)
好みの問題ではないですよ(笑)。
自身がアニメーターであり、今回は総作画監督ということを考えると、描くキャラクターの選り好みはしてられませんし、下手でも一度は、そういったタイプのキャラクターを描いておきたかったんです。それで自分が向いているかどうかの判断ができるようになりたかった。
――:念願の筋肉はいかがでしたか。
筋肉キャラをちゃんと描くのは初だったので、魅せ方にはかなり悩みました。男女で骨格が違うのはもちろんですが、ここまで筋肉のあるキャラクターとなると…。
そこでアニメーションスーパーバイザーの羽山賢二さんに修正してもらいつつ、完成させたんです。もらったアドバイスで、ほんの小さな修正でこんなに見違えるのかと目から鱗でしたね。
――:2つのシーズンを通して古関さんが描いていて楽しかったキャラクターや、評判の良かったキャラクターを教えてください。

まずは「錫切 夢子」(すずきり ゆめこ)です。インタビューの前編でも目のハイライトで苦労したという話をしたんですが、私も最後まで悩みながら描いていたキャラクターでした。「夢子は古関しか描けないね!」なんて言われたのも嬉しかったです。

単純に描いていて楽しかったのは、戦闘員Dですね。パーツや線量は圧倒的に少ないですし、自由にできる部分が大きくて、カートゥーンっぽい動きや表情なんかを盛り込める余地もありました。2ndシーズンの前半は、戦闘員Dとして登場することが少なかったのですが、終盤になって久々に描けるシーンが来た時はまさに歓喜。
人間側がリアルな人として描かれる分、そことは全く反対で宇宙人のような、自分たちとは違う生き物として描けるので、他キャラと比べて縛りが少なく、本当に描きやすいキャラクターでした。
――:戦闘員Dや錫切 夢子(すずきり ゆめこ)ら作品を牽引していくキャラクターが得意になっていくのは、自身の絵が作品と合致していたのでしょうか?
それもあるかもしれませんが、単純に描いた数が影響しているかもしれません(笑)。
――:描いた数といえば、2ndシーズンではキャラクター数が増えていることもあって、とても作業に苦労されたのではないかと思います。
1stシーズンもキャラクター数で言えばかなり多いのですが、2ndシーズンでは加えて群像劇の様相がありました。戦隊員は基本的に同じ制服なので、究極顔と体型の描き分けだけで済むんですが、怪人保護協会のメンバーに関しては、そういうわけにはいきません。
――:怪人保護協会の中には変身するメンバーもいましたからね(笑)。2ndシーズン範囲でも前半は学園ミステリー調だったり、後半は怪人保護協会やそれぞれの思惑で動くキャラクターたちが増えるなど、シリーズ全体を通して作品のテイストがガラッと変わるポイントが何回かあったかと思います。そういった内容の変化が、画作りなどに影響した部分はあったのでしょうか。
「これ!」とわかりやすく影響した部分はなかったんですけれど、1stシーズンでは戦闘員D vs. 大戦隊という単純な対立がメインでした。話が進むにつれ、怪人幹部、怪人保護協会が登場して対立相手が増えていきます。かつての大戦隊一強だった状況に他の組織が台頭して横並びになっていく描写は、2ndシーズンの群像劇をやる上でも重要な要素だと思うので、そういうシーンが来た時に絵が負けない、ちゃんと並んで見えるように意識して描いてました。
――:確かに2ndシーズンでは、新たに登場する怪人の幹部や、怪人保護協会のメンバーにも怪人に変身するキャラクターがいたり、デスメシアという象徴的なキャラクターも登場しました
怪人は幹部も含めて、立場や性質上どうしても退場する側になりがちです。だからこそ監督は、敵の立場にあるキャラクターを輝かせるように意識していたと思います。
2ndシーズンの見どころは

――:改めて、2ndシーズンの見どころを教えてください
さきほどの話を踏まえてなんですが、第20話では対立する敵としての強さ、手ごわさが顕著に出ていると思います。怪人保護協会に賛同する人々が協会代表である薄久保 薬師(うすくぼ やくし)の演説を聞こうと集まり、会場へ招かれます。舞台に立った薬師は、そこで初めて本当の目論見を群衆に明かすんですね。
その話を聞いて逃げ惑う群衆の前にすかさずフワリポンが登場して、一気に人々を怪獣へと変化させていきます。変化させられた怪獣は建物を突き破り、今にも街を襲おうと向かってくる、という衝撃的な展開が繰り広げられます。ずっと怪しさはあったけれど、特に大きな動きを見せなかった怪人保護協会が、ここで強烈な悪として描かれます。そこに大戦隊・戦闘員Dや他のメンツも集結していよいよ最終決戦へ…という流れで次回に続くんですが、この一連の流れがとても美しいんです。
第20話の前半までは社会的な描写を交えつつ、中々話が進まないリアルな側面を描いていたのに、後半でこれまで煮詰まっていたものが怒涛の勢いで解消されて、一気に変化した。あの短い間にリズム感良く詰まっているのが良いので、ぜひ見てほしいです。
――:何度見てもこのシーンはテンションがあがりますよね。
さとう監督のこだわりも入ってますし、20話コンテを担当された増田敏彦さんの上手さが下地にあるんだろうなと。ここにはアニメの妙が詰まっていると個人的に思います。


――:そんな2ndシーズンも、2025年9月24日から、Blu-rayが順次発売中です。古関さんは各巻のインナージャケットのイラストも担当されていますが、コンセプトなどはあるのでしょうか。
松竹さまからいただいた提案がベースとはなっているのですが、Blu-rayのインナージャケットは、片面にドラゴンキーパー、もう片面には対となるメインキャラクターを描くという基本構成になっています。
構図としては、ドラゴンキーパー側は逆光の影を作ることで強敵感を作り出し、その対になるキャラクターは順光にすることでお互いのコントラストを際立たせています。


ただ第6巻のデスメシアに関しては、ドラゴンキーパーと同じように逆光で書いたら真っ黒になってしまって(笑)。
――:(笑)。
私は好きだったんですけど、お店に並べてもこれでは何の作品なのかわからない(笑)。ここは断然知識のある監督に判断を仰ごうと聞きに行って、こういう場合はちょっと光があたってパーツが見えるほうが良いとアドバイスをいただけました。それで若干斜めから光があたったように描いています。
監督からは他にも、ガレージキットをいじる人であればこのテカッとした虹色に光るような塗装の処理を入れたらかっこよくなる!ってアドバイスももらいましたね。
――:デスメシアのジャケット絵を見たとき、すごくかっこいいなって思うと同時に、30年くらい前にさとう監督が関わっていたロボットアニメを思い出したんです。主人公が双子で弟が悪役なんですが、美しい造形でした。
デスメシアがメカなのかはさておき、メカ的な造形美があると思います。ただ私はこれまでいわゆるメカっぽいものを描いたことがなかったんです。描きながら「これであっているのか?」「この描き方でかっこよく見えるのか」とずっと不安だったんですけど、今のような感想が出てくるなら、大丈夫だったのかなって安心しました(笑)。
ちなみにデスメシアや怪人幹部たちは、造形作家の安藤賢司さんや、メカデザイン・クリーチャーデザインの明貴美加さんが設定を担当してくださったんですが、お二人共圧倒的な上手さがあってとても勉強になりました。

――:『戦隊大失格』2ndシーズンのBlu-rayでは、制作工程オリジナル映像も収録されていますが、見どころを教えてください。
「制作工程オリジナル映像」はコンテから何が加わっていって、最終的に放送された映像になっていくのか?という目線で見ると、とても面白いと思います。
私個人としては、自分が担当したところはどれだけ変化したのか。そこまで変化していなかったら安堵する、という楽しみ方をしています(笑)。
今回の映像を見直していて、各工程を経る中での微調整で細かく変化している部分が多いんだな、と再確認しました。構成からレイアウト、撮影処理が入る前後などで、よりキャラクターの動きや演出意図がスムーズに伝わる形になるようキャラクターの立ち位置などの微調整を加え続けていることが目に見えてわかるのは、とても新鮮で面白いのではと思います。
――:また制作工程での資料といえば、実は2021年に行われた『戦隊大失格』のコンペ資料も担当者が持ってきてくださっていまして…
ああああ、見たくないです…恥ずかしい…。
ただ今見直すと、当時自分ができているって思っていたけど、できていないところが、しっかりわかりますね。ベテランの方たちに、ちゃんと育ててもらったんだという実感を得ました。改めてこの環境に感謝したいです。
――:「ああああ…」という先程の悲鳴と、そのしぐさから、成長度合いを感じることができました(笑)。成長できる環境という点でも、YSPは古関さんにとって大きく働いていたように思います。
そうなんですよ。元々YSP自体が何も知らない素人でも臆せず質問することができるような環境でした。加えてさとう監督が、色々なメンバーとコミュニケーションを取りたい、場の雰囲気を大事にする人なので、その影響がプラスされた相乗効果もあったと思います。
さとう監督はじめ、経験のある先輩に技術的な相談ができる。それはキャラデザであっても、作監であっても原画であっても、どの立場でも関係なく誰もが接しやすい環境になっていたのではないかと思っていますし、そういった環境下で成長してこれたのは私の人生にとってとても大きな経験になりました。
今回お話しさせてもらった事を踏まえて、『戦隊大失格』アニメシリーズを観ていただくと、普通に観ている時と違った新たな側面を発見できるかもしれません。その一助になれば幸いです。
――:ありがとうございました!
「ああああ…」という悲鳴と共に振り返ったコンペ資料。それは、古関さんがYostar Picturesという成長できる環境で、多くの先輩や仲間に支えられながらプロフェッショナルへと駆け上がってきた、確かな軌跡の証だったのではないでしょうか。
1stシーズンでの葛藤を乗り越え、2ndシーズンで掴んだプロとしての視点。そして「どの立場でも関係なく誰もが相談しやすい環境」で得た経験。今回のインタビューで語られた数々のエピソードは、『戦隊大失格』という作品に込められた制作陣の熱量そのものです。
作品を見返したときに、筋肉の魅せ方やベルトの線一本にまで注目すると、新たな発見があるかもしれません。
現在、TVアニメ『戦隊大失格』1stシーズンはYouTubeにて全12話を期間限定で無料配信中のほか、2ndシーズンも含めてDisney+で全話配信中です。
また10月29日(水)よりBlu-ray第5巻(第17話~第20話)が、さらに11月26日(水)にBlu-ray第6巻(第21話~第24話)が発売になります。制作陣の想いを込めた一瞬一瞬を、ぜひお楽しみください!

▲前編はこちらから!▲

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